皆さん、2023年1月の投稿された「【移住失敗】色々ありすぎて引っ越すことになりました#31」という動画を知っていますか?
地域おこし協力隊として別子山に移住してきた投稿主が、地域おこしで直面した地元民とのトラブルを告発する動画です。
今回は、事件の概要や田舎社会が抱える根本的な問題について解説します。
【今回の記事の内容】
・別子山地域おこし協力隊の騒動について
・隊員・地域団体・行政の認識のずれ
・地域おこしに必要なこと
事件の概要
2023年1月に投稿された以下の動画をきっかけに別子山の地域おこし協力隊が炎上しました。
2023年11月時点で約500万回再生を記録した本動画は、「閉鎖的な田舎社会の恐ろしさ」「田舎いじめ怖い」など、多くの反響を呼びました。
事件の概要
今回の騒動が起こったのは、愛媛県の山間部にある新居浜市(別子山地区)。人口は100人程度の小さな村落です。
この土地に地域おこし協力隊としてやってきたのが、動画の投稿主である柳生明良さんです。
地域おこし協力隊
2009年度に総務省が制度化。
都市部から地方に移り住み、地域の魅力発信や活性化をサポートする取り組み
任期:概ね1年以上3年以下
総務省の支援:隊員一人あたり480万円上限(給料・活動費として)
隊員数:6447人(令和4年度)
地域活性化が期待されており、国は2026年度までに隊員数10,000人を目標にしています。
地域活動を巡って地元団体とトラブルに
別子山の地域おこし協力隊の募集要項(現在削除済み)によると、活動全体の8割が自分で自由にできる活動で、残り2割が地域活動に充てることが決まっていました。
しかし、この2割の地域活動の内容を巡って、地元団体である「別子山地域の未来を考える会」と柳生さんに齟齬が生じます。
(団体)地域活動=別子山地域の未来を考える会の活動
(柳生さん)地域活動=団体の活動ではない
柳生さんは、地域団体の活動が地域おこしに繋がらないと判断し、活動に参加しなくなり、地元民との関係が劣悪になりました。
「活動に協力しないなら、協力隊を辞めてもらう」
柳生さんが活動に参加しなくなってからしばらく経った頃、柳生さんは地元公民館の会議室に呼び出されます。
そこには地域団体の代表を含む4人が集まっており、柳生さんは以下のようなことを言われます(柳生さんの動画より引用)。
「我々の活動に協力しないなら協力隊をやめてもらう。協力するか選べ」
「君のような人がいると次の協力隊が我々の言うことを聞かなくなる」
「君の存在はこの地域の何のためにもなっていない」
この発言は本当になされたのかは分かりません。しかし、別動画の会長のインタビューを聞くと、「柳生さんのような協力隊が増えると困る」という発言があったのは事実のようです。
村の嫌がらせで持病が悪化し、移住を断念
動画では、会議室での一件以降村民からの嫌がらせが増え、柳生さんはストレスで持病の喘息が悪化してしまったようです。そして産後間もない妻のことも考え、移住を決意します。
プライバシーに関わることから柳生さんは嫌がらせの具体的な内容について明言を避けています。ただし、法的措置が取れるほどの嫌がらせだと動画で語っています。
意見の食い違い
別子山関連の動画や記事を見ていく中で、次の2点で意見が柳生さんと地域団体の方々の意見が食い違っていることが分かりました。
①「地域活動」とは何を指すのか?
②地域団体の活動連絡はどう行っていたのか?
それぞれ両者の意見を見てみましょう。
「地域活動」とは何を指すのか?
柳生さんは当初、
地域活動=未来を考える会(地域団体)の仕事ではない
と指示を受けていました。
一方、地域団体は「地域活動の一環で未来を考える会を手伝うべき」だと考えていました。このような認識のずれで、柳生さんと団体側の関係が一気に悪化してしまったのです。
地域おこし協力隊の募集要項は地域団体が書いていたため、団体側は自分達の活動に参加するのが筋だと考えていたようです。
しかし、募集要項の文書を発表しているのはあくまで新居浜市なので行政の認識に沿うべきでしょう。
そもそも、地域おこし協力隊の雇用主である行政が、「地域団体」の定義を団体と協力隊にはっきりと伝える必要があったと思いますが…
地域団体の活動連絡はどう行っていたのか?
地域団体の活動に不信感を抱いた柳生さんは、団体の活動に参加しなくなります。
動画内で柳生さんは、「団体から連絡がある日を境に来なくなり、活動に参加しなくなった」と言っていますが、一方の団体側は「柳生さんが突然活動に来なくなった」と主張しています。
「突然来なくなった」と「連絡が来なくなったから行かなくなった」では、かなり違いますよね。
団体の活動連絡がどのように行われていたのかは定かではありません。しかし、柳生さんが事前に活動を辞めると連絡したわけではなさそうです。
問題の本質はどこにあるのか
この一連の騒動の問題の本質はどこにあるのでしょうか?
ここでは次の3つの観点から、田舎社会で町おこしを行う難しさについて解説します。
①地域団体と行政の距離が近い
②暗黙の了解で互いの業務の領域が決まる
③村八分
①地域団体と行政の距離が近い
地域おこし協力隊は「協力隊」「地域」「地方公共団体」の三方よしの考え方で成り立っています。しかし実際には、地方では地元民が行政の業務に携わることが多く「地域」「地方公共団体」の同質化が進んでいます。
実際、別子山の協力隊の募集要項は地域団体が書いていましたよね
これにより、行政と地元民の境界が曖昧になり、地域の有力者が職権を超えた行動や発言を行うようになるのです。
②暗黙の了解で互いの業務の領域が決まる
地方において「昔からそうだったから」という暗黙の了解で田舎のコミュニティ内で役割が決まっていることがとても多いです。
しかし、都会からの移住者がそれに馴染むのは困難なことです。
それを無理に「参加しないなら出ていけ」と取れるような言い方をしたら、反発を生むでしょう。
③村八分
限界集落では、約束やしきたりを守らない者に対して「村八分」を行うことがあります。
【村八分の例】
ゴミ捨て場を使わせない
重要な連絡事項を知らせない
「感染者を出した家に対して嫌がらせが発生→県外に引っ越す」なんて事件がコロナ禍の中日本全国で起こりました。
現在においても、村落で村八分が発生しているのは事実です。
地域おこしに本当に必要なこと
地域おこしの最終的なゴールは、「若い世代が住みたいと思えるような地域を作り、町を活性化させること」のはずです。
では、その地域おこしに本当に必要なこととは何なのでしょうか?
地方における意識改革
地域おこしで真っ先に行わなければいけないことは、地元民の意識改革でしょう。
ただ雇用機会を増やせば地方に若者は帰ってくるのでしょうか?
そんなことはないでしょう。
よそ者に嫌がらせを行うような閉鎖的な地域性を改善しないと、若者は帰ってきません。
「昔からの決まりだから守って当然」
「ルールを守れない人は出ていけ」
このような考え方は捨てるべきです。
地方では地元民の自治によって生活が成り立っています。だからといってそれを強制するのは違います。話し合いの場を設けて冷静にお互いの意見を交換しましょう。
目的と手段を履き違えない
よく地域おこしで目的と手段を取り違えている人がいます。
「地元の新鮮な野菜を売り出す」
「公民館で交流会を開く」
これらの活動を否定するつもりはありません。
しかし、地域おこしが若い世代に移住してもらえるような町づくりである以上、その手段は「雇用機会を生み出す」「保育施設の役割を担う」などを目的とするべきです。
本当に今の活動が目的達成に役立っているかを客観的に評価しましょう。
「なんとなく役立っているかな」程度の活動ではわざわざ住みにくい地方へ移住を決意する人はいません。
地方の良さを活かした地域おこし
地域おこしは、都会の考え方を丸々導入してもうまく行きません。地方に根付いた良い慣習を活かした活動を行うことで、地域おこしを成功に導くことができます。
「助け合いの精神」
田舎では、助け合いの精神が息づいています。これはとても素敵なことです。「自分は関係ないけど、困った時はお互い様だから」と困った人を助けられる心遣いは、自己保身に走りがちな日本に必要なことでしょう。
実際、柳生さんも別子山の方々に大変お世話になったと感謝しています。
引越し前に柳生さん一家の住む集合住宅で火災が発生しました。
その際、夜の出火で避難先が決まらず、深夜まで自治会館で過ごしていた柳生さん一家を迎え入れ、食事やお風呂、就寝まで面倒を見てくれた別子山の夫婦がいました。
それ以外にも消火活動で家や荷物が水浸しになってしまった一家に対し、食品や物資の買い出しや夜遅くまで炊き出しを行った町民もいます。
炎上している別子山の人々も決して冷徹な人々ではないのです。
地域を良くしたい気持ちは一緒
今回の騒動では意見の食い違いで地域団体と柳生さんの関係は悪化しましたが、両者とも「地域を良くしたい」という気持ちは共通しています。
ただ、そのやり方や方針が異なっていたのです。
育ってきた環境が違うもの同士、意見が必ずぶつかります。そこで冷静に話して妥協をすることで初めて、地域の良さを活かした地域おこしができるのです。
まとめ
・別子山の地域おこし協力隊の騒動は2割の地域活動の内容で食い違いがあり起こってしまった。
・行政が隊員と団体の仲をもっと積極的に取り持つべきだった。
・地域おこしの目標は「若い世代が住みたいと思えるような地域を作り、町を活性化させること」
・地方における意識改革が地域おこしには必要とされる。
コメント
最後は放火されて追い出されてるからなぁ